ukiyoniha’s blog

物語、ポエム。

世界旅行の世界(1)

コルドバという街の朝です。

突き抜けるような、ちょっと日本にはないパステルブルーの天空です。

中学生の女の子は尋ねます。

「先生?今日はどちらの方角へ?」

「えっと、ここから南東に、グラナダというわりと大きな街があるのだけれど、そっちの方角を目指してみるというのはどうだろう?」

「うん、いいよ。そうしよう」

あまりにもゆるい、行路設定です。
そこはそれ、そもそも、知らない世界を見てみようという旅です。
ゆるい先生の鷹揚な提案も、女の子がYESなら、それで決まりです。


今日は、いったいどんな町がふたりを待っているのでしょう。

スペインは、広い。

果てしなく、広い。
ゆっくりゆっくり、列車の旅です。

車窓からの風景は、ほどなくすると一面のぶどう畑やオリーブ畑の景色に変わります。

薄く開けた窓から流れ込む、遠く地中海から届いたサラサラの風が女の子の髪を揺らします。

コルドバで買い込んだサンドイッチとコーヒーで早めのランチです。

女の子は、まだスペインの苦味の強いコーヒーが飲めません。

お砂糖をたくさん入れたラテです。

「このラテ、とっても甘い」

「そう?では、わたしのコーヒーを少し分けてあげましょう。きっと、ちょうどよくなるよ」
漂うような時間のなかでのランチは、心もお腹も満たしてくれます。



今日三度目となる、少し長めの停車時間です。
ふたりは、固まってしまった体を開放しに列車の外へと向かいます。
乾いた光に包まれた一直線のホームです。
ひさしがないところまで歩いて行って、西へと傾きはじめる太陽の下で大きく伸びをします。

「今日はどこまで行けるかなあ?」

両手をいっぱいに挙げたまま女の子は聞きます。

「るみちゃんは、今夜どんなところに泊まってみたい?」

「そうだなあ・・・、ちょっと田舎みたいなところがいいかも」
「そうか。では、昔の映画にでも出てくるようなところがあるといいね」
そういいながら並んで列車に戻ります。
ふたり、ほとんど同時に腰をかけると、すぐに先生は大きな地図を開きます。

「どこか、ありそう?」

「う・・・ん、どうだろう。地図だと風景まではわからないから、勘で決めてしまおう。それでは、るみちゃん、目を閉じて右手を貸してみて?」

「こう?」
「そうそう。では、膝の上に地図を置くよ?そうしたら、好きなところに人差し指を下ろしてごらん」

「わかった。じゃあねーーーここ」

女の子は、指を固定させたままで目を開けます。

先生は、人差し指のそっと置かれた場所を確認します。

「ボバディージャ、だね」
「ぼばでぃーじゃ?耳慣れない音の組み合わせだね」
女の子は、笑顔でそういいます。

そんな女の子を見て、先生にも笑顔が伝わります。

そうして、今夜のステイ先は決まります。

コルドバとマラガのちょうど真ん中くらいの小さな町。


ボバディージャ。


(つづく)