ukiyoniha’s blog

物語、ポエム。

2017-01-01から1年間の記事一覧

世界旅行の世界(1)

コルドバという街の朝です。 突き抜けるような、ちょっと日本にはないパステルブルーの天空です。 中学生の女の子は尋ねます。 「先生?今日はどちらの方角へ?」 「えっと、ここから南東に、グラナダというわりと大きな街があるのだけれど、そっちの方角を…

月夜旅 三夜

今宵は、怖いくらいに深く乾いた渓谷で、たったひとりしか生息していない錯覚に陥ります。どこまでも人の手では成し得ることのできない、芸術的で粗野な谷に吸い込まれそうです。いつも以上に足元を鮮やかに照らしてくれる、お月さまとお話しします。お月さ…

桜の下にて、面影を(4)

雲の上にいるようなあてどない心持ちのまま葬儀に参列した数日後、ふと数李が言っていたことを思い出した。 それは、あまりの睡眠授業の体たらくを嘆いて苦悩していた桐詠を慰める言葉だった。 「桐詠の声は、不思議な魅力を持っていると思うんだ。これはね…

月夜旅 二夜

今宵は、 ひとりでは出られなくなりそうな迷路の町に迷い込んでいます。 どこまでも潤いを失った砂の上に、同じ町並みが繰り返されているみたいです。 愉快な気分と不安な気持ちが天秤にかけられながら、お月さまとお話しします。 お月さま、 当たり前のこと…

桜の下にて、面影を(3)

明朝、約束どおりに数李の家の前まで行くと、早朝の静けさとは何か別の類の寂けさが漂っていることに気づいた。 チャイムを鳴らしても、誰も出てくる様子がない。 不安になって玄関を開けようとすると、鍵が閉まっていない。 これはおかしいと、厭な予感が一…

桜の下にて、面影を(2)

数李授業の人気の秘密。 それは、生徒の「面白い」という気持ちを引っ張り出すことから始まる。 数式に公式を当てはめて自動的に弾き出すという味気も妙味もない授業は、数李にとっても興味のないものだった。 どうして、そうなるのか。 そもそもこの数式を…

月夜旅 一夜

今宵は、 水平線の先までつづく珊瑚たちが、なにやら賑やかにお話しをしています。 どこまでも透きとおる海は、新月と満月で時を知らせます。 影をつくらず小舟を浮かべて、お月さまとお話しします。 お月さま、 わかるときにならなければ、わからないことが…

桜の下にて、面影を(1)

桜咲く頃、高校を辞めた宇野里桐詠は、足音も静かに冴えて西へ向かう。 宇野里桐詠。 「きりよ」と読むその名に、昔はずいぶんと苦しめられた。 まだ漢字を書けない、話し言葉だけでコミュニケーションをとる幼少の頃は、この名に殊の外苦しめられた。 オブ…